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古典落語 桂 米朝 米朝事務所

桂 米朝【猫の茶碗】

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桂 米朝『プロフィール』

落語家 桂米朝

桂 米朝(かつら べいちょう)
本名:中川 清(なかがわ きよし)
生年月日:大正14年11月6日
出身地:兵庫県姫路市

http://www.beicho.co.jp/profile/桂%E3%80%80米朝/より引用



笑いの分類『知的な笑い』/サゲの分類『謎解き』

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ま、あのー古いもんがこの頃見直されておりますがな。

ああいうもんの値打ちというものは、これがあってないようなもんで、展覧会なんかに行きますというと、色々なこの焼きもんなんか並んでます。

あ、けっこやなーと思って私ら分からんながら見せてもらうんですけども、値段がねあれ高いですなー。どこであんな値段を誰が決めているのかと思うんですが。

こうツボが並んでましてね。同じような色味で同じような格好で同じような模様がついて。で大きい方に20万、小さい方に40万てな値段がついてる。(リアルオチフリ

●これ何でこない値が違いまんねんこれ?え?なんでこの大きい方がは20万で、小さいが40万で?

なんでて、そら小そうてもこれには40万の値打ちがある。大きいてもそれは20万や。(リアルオチフリ

●せやけど、同じ格好して同じ色目で同じ材料で同じ模様がついてまんねんであんた。え?なんで大きい方が20万。

■焼き芋買うねやないんやさかいな。大きいほうが高いというもんやない。これ値打ちや。(リアルオチフリ

●どこがその40万や。

こんなもうちょっと見たぐらいでは分からん。この40万円のツボ、しばらくじーっと見ててみなはれ。ほんならこの図柄がこの模様がこうずーっと浮き上がってきて、こう迫ってくるような気がしましゃろ?リアルオチフリ

●なるほど。ほんにじーっと入ってるとこれはこう、いや40万ですなーこれは。大きいけどなんとなしに品がない、やっぱり20万や。

なんか言ってたら係員来て「すいません、ちょっと値札間違ってました」リアルオチ

●何が迫ってくんねん。やっぱりこれが20万でこれが40万。

■そう言うと・・

●なにがそう言うとや。

まあこんなもんでっせ皆。偉そうな事を言ってるけどね。

分かっている人が何にあるやら危ないもんです。物の値打ちというものは買う人が得心したらいいんですな。

 

女の人なんかもうあのーショッピングとなると、もうせんどより回って選んで選んで迷うて迷うて、あれが楽しいんやそうでございますがな。

ハンドバッグなんか一つ買うんでも大変で、●奥さんからどんな?

これは私最前から気に入ってるんだけどもこれあのお幾らです?リアルオチフリ

●これがあの4000円でございます。

4000円。もうちょっと小ぶりのがあったら。(リアルオチフリ

●左様ですか。なあこれ小さいけどね。コレ4500円ですけど。

■スマートな形やけど、ちょっと小そすぎるなーこれは。

●小そすぎる。もうちょっとこのもう少し、これはどんなもん?

■色目はええなぁ。おいくら?

●これは5000円になります。

■なるほどねー。ちょっとこれがいらんもんが付いてる気がするね。もうちょっとシンプルに。

●あのー、これは5500円になります。

やっぱりねー、お金はやっぱり高い方がいいなー。こうやってみたら。せやけど、これは?あ、これ6,000円?これね。リアルオチフリ

係員が一番初めのやつこっちからそーとっこう回して。(リアルオチフリ

●あのこれ7000円でございますがな。

ええなーこれにしよー。(リアルオチ

言うて4000円の7000円で買うたり得心したのがあるんですな。高かったらなんか納得がいくというような。



ああいうものの扱う商売人というと、ことにこの古い道具になりますと目利きというのが大変でございますが、近頃はもうね、掘り出しもんなんて滅多に無いんやそうですな。

大分前、ちょいちょいちょいちょいこの田舎回ったりして掘り出してきた時代がございました。

大阪の道具屋さんが、岡山県ともう鳥取県の境というぐらいの奥深いところのお寺にあそこには古い珍しいものがいっぱいある。

すずりなんか実に上等なもんがあったてなことを聞いて、「ぜひ紹介状を書いてください」というわけで、紹介状を書いてもらいまして、やってまいりましたら、新幹線のなかった頃、えーもちろん古い鉄道走ってましたが、西へ行くには不便でした。

山陽本線でゴトゴトと行って、また私鉄に乗り換えて、バス乗って降りてそっからまだだいぶ歩いて。

やっとの思いでそこへ行ってみましたら、ろくなものありませんな。

お寺も経営が苦しいかして親父が売ってしまいましては、ろくなんがありませんけどな。

まぁ気に入ったがあったら、はるばる大阪から出てきて手ぶらでは帰られへんし。

まあ古いには違いないやさかいな。「まあ、なんか買うて帰ろうかー」

かさばらんものを2、3点買いまして、またトボトボと「えらい無駄足やったなぁ」とぼやきながらバスの停留所まで帰っていく。

あの田舎のバス停というやつはこの
ちょっとした茶店なんかね、バスの切符を売ったり同時にまたジュースやパンや並べてある。

雑貨日用品なんかもちょっと置いているそういう店がございます。

そこのしょうぎに腰を下ろして、時間表見るとまだ40分ぐらいある。

●待たんならん、しゃあないな。おっさん、そのあのジュースおくれぇな?

瓶ごとラッパ飲みにしながら、いつまでもえらい厳しい残暑じゃ。

 

●へ〜どんならんなぁ。なんと思ってこんなとこまで来たんやろなぁ。こういうところには掘り出し物があるんやがなぁ、と言うて見ず知らずのとこ飛び込んで「何かおまへんか?」ちゅうわけにもいかんし。なんぞ持って帰らなんだら、阿呆らして大阪いねんでもう。どっちゃみち今日中に帰られへん。宿銭だけでも儲けて、帰りたい…もん…「あれっ?」

ひょっと見ますと横手で猫がごはんを食べてる。その猫のエサの入ってる器がただの器やない。

●待てよこれ。絵高麗梅鉢の茶碗。ええ!?捨て値で売ったって100万や150万するでおい。えらいもんで猫飯食ってるな。知らんということは恐ろしいもんや。どうみても、おお。「チェチェチェチェチェチェ」こっち来いこっち来い、来い来い来い来い、ヨイショっと。

■お客さん、あのなー毛がお召し物につきまっさかい?

●いやいやいや、わいネコ好きやねんこれ。可愛らしい猫やなー。おぉ。

■これこれこれ、膝の上あがって。これミー降りなさい。

●いやいや、わしが抱き上げたんやがな。ミーちゅうの?あーええ毛並みやなぁ。いやうちもなミケおったんや。うん、これと同じような猫や。うちとこ子供がないんでな。うちの家内がもう我が子このようにして可愛いがった三毛猫がこの前死んで、えらい泣きよってなぁ。あぁちょうど同じような毛並みや。こんなん見たらまた思い出して泣くやろう。これあなたところずっと?

■ここはなぁもう犬やら猫やらよう捨てに来ますねん。うーん。ぎょうさんゴロゴロしててかなんと思うんやがなぁ。まあ犬でも猫でも生きもんやさかいな、というてそないぎょうさん飼われへんし。人に頼んでもろてもらったりしてますねんがな。こいつだけは貰い手がない。飼うつもりもなかったんやけども居着いてしまいましたら、うちのばばがな、うーん我が子のように可愛がってもう見えなんだら探し周ったりしてますねん。そうすると私は猫なんかあんまり好っきゃなかってんけど、情が移って可愛いもんで…

●あぁ可愛いもんやな。もうわしかてな、猫好っきゃさかいに。

■もうえらいもんでんな、よう知ってますね?ちょっと愛想で頭なでたりしてもな。もう猫の嫌いな人のそばいけしまへんで。やっぱりゴロゴロゴロゴロ。

●これうちの家内に持って帰ったったら顔なんかそのままやで、この黒いのがこうあるとこなんかな。うおぉなんじゃいな。

■あーもう懐入ったらいかん。

●いやいやいや、えらい慣れて懐入っていったがな。可愛らしいもんや。えぇ、なあ?これおくれぇな?これうちの家内に土産に連れて帰り…えぇいや死んだ猫が生き返った言うて喜ぶ。



■え〜今ばばが留守ですのでなぁ。あれのおらん間に、知らぬお方にあげてしまったてなこと言うたら、またぼやきよるやろうて。

●こうなったらわしはようださんがな、な?えぇ、ちょっちょっとな。これちょっとわずかやけどな。かつお節代やとっといて。

■いやそんなことは…もし5000円でっしゃないか?いやこんなお金もろたら…

●いや、まあまあまあかつお節代やとっといてさ。ちょっとわしにおくれぇな?これ連れっていったらうちのやつ喜ぶと思うわ。

■そうですか?そらまあお客さんみたいな家に飼うていただいたら、この猫も幸せや。ばば留守でぼやくかもわからんけども、そないまでお気に入ったんやったら、ほんなら連れて帰ってどうぞ可愛いがってやってください。

 

●あぁ大事にする大事にする。それでわしまだなシュッといねへんねや、うん。あのー宿屋に泊まったりして、帰るんでな。で宿屋でこの飯食わす時にな、うーん器はこれ嫌がったらいかんさかい、ちょっとこの猫のこの器な、これちょっと紙に包んでぇな?一緒に持っていくさかい。

■あぁ猫の食器ですか?ほなこっちにええもんがあるさかい。

●いやいやこれでええこれでええ。今食べてるこれちょっと紙に包んでもうたら…

いやいやこれまたこう割れたりしたりいかんさかい、あのプラスチックの…リアルオチ

●プラスチックいらん。賢い猫はな、常に食べてる器やなかったら、あのー嫌がって食わんってなことを聞いてるさかい。これ、これをちょっと包んで、これ持ってくさかい。

■これはその、ちょっと差し上げるというわけには参りませんので。

●なんで?

■いやこないしてますとなぁ、なんじゃいなってなもんやけど。これ絵高麗梅鉢の茶碗というてまぁ捨て値で売っても150万くらいはします。

●これがへぇ。

■これ私こういうもんが好きでな。ぎょうさん集めてましたんや。ところがあの戦争の時こっち疎開してきた。その時にもうみんな処分してしまいましてなー、えぇ。で、もう大阪戻ろうか思ってるうちにもう歳やしな。もうえーこっちに根生やしてしまいました。これだけはよう離さんとな、他のものはみな売ったけども、もうずっと持ってましてまぁ。明け暮れ目のつくとこに置いとけと思って、まあここで猫に飯やったりしとりまんにゃけど、これはちょっと私よう離しまへんの。

●オホン、えぇぇ。かきむしりよんねん。いやそらなもうもろてるけどな。お前こんな、そんな値打ちもんなんでお前猫に飯食わせたりすんねん?

これがお客さんおもしろいもんでな。これで猫に飯食わしてますと、ちょいちょい猫が5000円に売れまんねん。(サゲ

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